無麻酔歯石除去は絶対NG!愛犬と財布を傷めるだけの理由を解説

こんにちは!今日も留守中の愛犬をカメラで監視、pyramikkoです。

↑3分で書いた自画像です。かわい。ピラミッドです。

最近巷で話題の「無麻酔歯石除去」。無麻酔って聞くと犬に負担がかからなくてお手軽な歯石除去方法だな🎵と思いますか?

それ、とんでもない間違いです。

無麻酔歯石除去は可愛い可愛い愛犬に多大なストレスを与えるだけではなく、怪我や病気にさせてしまうリスクがあります。さらには、その手技自体無駄があり、その後すぐに麻酔下の歯石除去をやり直す羽目にも……。

愛犬にもお財布にも負担をかける「無麻酔歯石除去」のデメリットについて解説していきます。

ちなみにメリットはありません。

目次

そもそも「歯石」って?

歯石とは、歯垢(プラーク)が固まったものです。

歯垢は、元は犬の唾液成分です。この唾液成分がうすーい膜となって歯を覆います。すると、そこに細菌(歯周病菌)が増殖して、ぬるっと歯垢ができあがります。

この歯垢を3~5日ほど放置すると歯石になって、もう歯磨きではとれなくなります。

理想はこの歯垢の段階で歯磨きをしてこまめにとってあげることですね。でも、中には口の中を触られるのがニガテな犬や、歯磨きという行為を教えられてこなかった犬もいるでしょう。

そういう子には定期的な歯石除去(スケーリング)がお勧めされます。

歯石除去(スケーリング)では何をしているのか

麻酔下のスケーリングでは、実は色々とやることがあります。ただ単に歯石をとっているだけではないんですねぇ。

ここ、無麻酔歯石除去と比較する上で重要なところなので少し詳しく解説します。

口腔内の精査

麻酔をかけて動物に寝てもらっているので、普段はみれない口の中をつぶさに観察します。

何か変なできものはないか、歯茎の腫れや赤みはないか、歯周ポケットの深さは適切か、過剰な歯(乳歯遺残)がないか、生えていない歯(埋伏歯)はないか、などなど。

口腔内レントゲン検査

歯の根元まで、レントゲン検査で確認していきます。

歯石がついているだけであれば、歯石を取れば終わりです。ただ、見逃してはいけないのは歯周病が進行して、歯の根本の骨を溶かしてしまっていないかということ。

これは見た目だけではわからないことも多いです。実際、見た目はとても綺麗なのに口臭がひどいという理由で病院に行き、麻酔下で口腔内のレントゲンを撮ったところ何本も歯の根元が腐っていて抜歯をせざるを得なかったというケースがあります。

口腔内のレントゲンは、しっかり根元まで移さないといけない関係上、動物の口の中にレントゲンを撮影するためのカセッテを入れる必要があります。このカセッテ、高いものだと40万円ぐらいするんです…。起きている時にカセッテなんて入れて噛み砕かれた日には泣きそうになりますよね…。動物にとっても口の中を怪我するリスクになります。

そういった機械的な面と、きちんと鮮明な画像を得るという関係上(動くと画像がブレるんです)、口腔内のレントゲン検査は麻酔下でないとできない手技です。

※歯科用レントゲンは持っている病院と持っていない病院があります。かかりつけの病院にあるかどうかは確認してみてください。

プラン策定

レントゲンまで撮って口腔内の環境を把握したら、この子にどういった処置が必要かその場で決めていきます。

  • 何にも問題がなければ、歯石除去だけ。
  • 根元が腐っている(骨が溶けている)歯があるなら、抜歯をする。
  • 折れている歯があるなら整復をする、もしくは抜歯する。
  • 歯茎に埋まっている歯があるなら、歯茎を切開して取り出す。

こうした細かい処置の内容をレントゲンの画像を元に決めていきます。レントゲンを撮れないとそもそもわからない上に、抜歯なんて麻酔下じゃないとできないですよね。

「じゃあ抜歯しなきゃいいのでは?」と思いますか?

それでは全く解決になりません。根本の骨が溶けているのは、歯周病菌による細菌感染がひどいからです。そして、それは表面の歯石をとっても意味がないのです。抜歯して、根本にアプローチできるようにして、細菌をねこそぎ取り除く。そうしないと骨が溶けるのはおさまりません。最悪、放置すると骨折します。

歯石除去(スケーリング)

抜歯が先か、スケーリングが先か、は術者によります。が、抜歯の手順を書いてもしょうがないので麻酔下スケーリングの奥深さについて少しだけ触れましょう。

麻酔下のスケーリングと無麻酔スケーリング、おんなじ歯石を取るだけでしょ?って思われるかもしれませんが、全然違います。

麻酔下スケーリングでは表面の大きな歯石はもちろんですが、なにより歯周ポケット内の歯石・歯垢を除去することを重要視します。

人でも聞きますよね、歯周ポケット。あれは犬にもあります。そして、歯周ポケット内の歯垢こそ、あなたの愛犬の口臭の原因であり、歯周病を進行させる要因です。歯垢には細菌が繁殖しやすいんでしたね。そしてその細菌が骨、溶かします。

これを取らなきゃ意味ないですが、無麻酔スケーリングでは取れません。無理に取ろうとすれば十中八九歯茎を傷つけます。繊細な作業です。動いている動物相手にはできません。

無麻酔歯石除去って…

あんまり医療従事者って断言しないのです。絶対〇〇です、って言わないということです。「絶対」はないですし、例外というのが存在しますからね。

でも、無麻酔歯石除去に関しては「メリットがない」と断言します。

麻酔下の歯石除去と無麻酔歯石除去の手技については比較してきたので、ここからはさらに無麻酔歯石除去にスポットを当ててデメリットを挙げていきましょう。

犬にとんでもないストレスになる

歯医者好きな人、いますか?歯医者さんには申し訳ないですがあんまりいないですよね。

口の中で手や器具が動いているけど何されているのかわからない不快感、振動して高音を上げる機械、「痛かったら手をあげてください」と言われたから手をあげたのに特に何も変化がない絶望感…。

人間は自分で歯医者を予約して、来院して、処置をしてもらっています。でも、その人間ですら歯医者はストレスです。じゃあ、動物は?

わけもわからないまま知らない場所に行って、知らない人に囲まれてがっちり抑えられて、口の中をそれなりに強い力で操作される。動けば器具が歯茎に刺さることもあるでしょう。その場合、いきなり痛みがきますね。痛いし怖いけど、動いたら怒られるかもしれない。また痛みが来るかもしれない。

ストレスじゃないわけないですよね?

麻酔の目的はいくつかありますが、「動物を精神的苦痛から解放すること」も含まれます。スケーリングの麻酔は、特にこの目的が強いかと個人的には思います。

私は無麻酔スケーリングは飼い主の自己満だと思っています。麻酔をかけるなんて可哀想、という発想はとても古いです。実際、老齢であることそれ自体は麻酔のリスクをそこまで上昇させません。後述します。

麻酔をかけるなんて可哀想、よりも無麻酔で押さえつけて歯石を取るなんて可哀想、という発想に至って欲しいと切に願います。

怪我をするリスクが高い

2019年に日本小動物歯科研究会が全国の会員にアンケートをとった報告があります。

その報告から、無麻酔歯石除去に関する有害事象に関しての表を抜粋したのが下図です。

取り返しのつかないような事故が度々起こっていることが伺えます。

麻酔リスクを避けて無麻酔歯石除去を実施しても、その処置中に下顎骨骨折や椎間板ヘルニアや股関節脱臼を起こしたら、程度にもよりますが結局麻酔をかけないといけなくなりますね。本末転倒です。むしろマイナスです。

もちろん、歯周病が進行していたら麻酔下の歯石除去で細心の注意を払っていても下顎骨骨折を起こしてしまうリスクはあります。骨が脆くなっているので。ここには触れておかないとフェアじゃありませんが、他のリスクは麻酔下の歯石除去であれば軒並み回避可能です。

きちんとした処置ができない&その後のケアにも悪影響

先ほどの表をよく見てみると、無麻酔歯石除去で歯周病の改善が見られないことやむしろ悪化が見られる症例が散見されますね。これはいくつか理由があります。

  • 歯周ポケットの歯垢がとりきれていないこと
  • 根本の歯周病にアプローチできていないこと
  • 見た目の歯石が消えるために「歯周病が治った」と勘違いしてしまうこと
  • 処置後口元を触らせなくなり、口腔内のケアができなくなること

などが考えられます。

見た目では歯周病というのは診断できません(歯肉炎までなら見た目だけで診断しますが)。歯石が取れた!はい、歯周病完治!なんて上手い話はありません。

さらに、口元を警戒して2度と触らせなくなる犬もいます。こうなると日常のチェックすらできなくなりますね。歯磨きなんて夢のまた夢です。

違法行為の可能性がある

歯石除去は医療行為です。そして、医療行為は獣医師以外はできません。

もし、トリマーや人間の歯科衛生士などが犬の無麻酔歯石除去を行なっているなら、それは違法行為になります。

犯罪の片棒を担ぐの、嫌じゃないですか?

資格もない人間に、可愛い愛犬の歯をいじくりまわされるの嫌じゃないですか?私は嫌です。

無麻酔歯石除去にさまざまな有害事象があるのは先の表で示しましたが、その中に処置中に死亡、誤嚥性肺炎、異物誤飲など、明らかに獣医師の判断がないとすぐに対処しえない事象がありますね。

無資格者に無麻酔歯石除去をしてもらうということは、こういった有事にすぐ対処してもらえないということです。

もちろん、獣医師であっても私は反対の立場です!

麻酔ってそもそも、そんなにリスクが高いの?

最後に、ここには触れておかないといけないでしょう。

おそらく無麻酔歯石除去を選択する人の大半の人が言うでしょう。

でも、麻酔リスクの方が怖い…

では、実際に麻酔リスクがどれだけなのか見ていきましょう!

何も疾患がない、健康な犬の場合は麻酔・鎮静関連死亡率は0.05%(ASAⅠ〜Ⅱ)

重大な疾患がある、持病を持っている犬の死亡率は1.33%(ASAⅢ〜Ⅴ)

Brodbelt et al.2008

どうでしょう。意外と低いと感じましたか?高いと思いましたか?

ASAというのは麻酔リスク分類です。数字が高いほど麻酔リスクが高くなることがわかっています。「高齢」はそれだけならASAⅡに分類されます。

もう一つ、日本の二次診療施設からの報告です。

麻酔関連死は0.65%であった。

その麻酔関連死の75%は、持病のある犬で発生した。

Itami et al. 2017

やや高く感じますか?ただ、この報告は二次診療施設からのものということに留意しなければなりません。二次診療施設では、普通の動物病院では麻酔をかけられないと判断した症例や、手術の難易度が難しい症例が集まってきます。その中での0.65%です。

さて、ここまでをまとめると、

  • 持病のある犬は麻酔リスクが上がることがわかっています。持病というのは循環器疾患や腎不全、肝不全など。
  • そして、ただ高齢なだけの犬では麻酔リスクが上がるとははっきりしていません。
  • 持病がある高齢の犬では麻酔リスクは上がります。

というわけで「高齢であること」その一点だけで麻酔リスクが高いと言い切るのは間違っています。ただ、高齢であるとその他の病気が隠れている可能性があるので注意は必要です。

その点は、麻酔前の検査をしっかりしてもらってリスクを洗い出すことで解決しましょう!

結論:無麻酔歯石除去は百害あって一利なし

本当はもっとたくさん書きたいことありますが、あんまり情報量多すぎても読むのが大変なのでここまで。

結論として、個人的には絶対愛犬にやらない処置No1です。飼い主の自己満足で終わる可能性が高いと思います。

愛犬を守れるのは飼い主だけ。何がいいのか、しっかり情報収集して考えていきましょう!

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この記事を書いた人

はじめまして!pyramikkoです。
愛犬が大好きで大好きで、大好きすぎて他の人に任せられず獣医師になりました。
愛犬にいいと思った情報、獣医学的に正しいと思われる情報を飼い主と獣医師両方の目線からお届けします!

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